先進国の中で最も労働時間が短い国と言われているドイツ。しかしながら、ご存知の通りドイツはヨーロッパを代表する経済大国であり、労働生産性も生活水準も非常に高い、最も豊かな先進国の一つである。雄大な自然やレベルの高い文化、他国へのアクセスの良さも魅力的だ。
この記事では、ドイツで働いてみたい方に向けた様々な情報をまとめた。
目次
ドイツの仕事事情
(HowTravel編集部)
●現在の求人マーケット事情
ドイツで働くためには当然就労ビザが必要になるが、就労ビザの申請には会社のサポートが必要になる。手間も時間もかかるビザのサポートを積極的に行っている会社は少ない。また、ドイツはEU加盟国であり、EU加盟国出身者であれば就労ビザがなくてもドイツで働くことができるため、ここ数年は失業率の高いEU加盟国、例えばスペインから国内では就職できない有望な若者たちが数多くドイツに職を求めてやって来ている。
求人情報の応募資格に就労ビザを持っていること、と書く会社も多く、就労ビザの取得をサポートしてくれる会社を見つけることが最も重要で最も難しいと言えるだろう。有効期限はだいたい1年〜3年だが、会社側が認めれば更新するのは比較的容易である。
なお、就労ビザはサポートしてくれた会社での就労が認められるものなので、転職や退職をする場合は新たにビザを取得しなければならない。まずはワーキングホリデービザを取得して働きながら、就労ビザに切り替えるというのが現実的な方法かもしれない。
●給与や労働時間等の条件
①給与
職種や地域にもよるが、月収1,500ユーロ(約187,000円)が相場と言われている。ドイツの保険料や税金は高く、給料の約4割ほどになるので、手取りは月収1,100ユーロ(137,000円)くらいになるだろう。その分様々な保険が充実しており、歯医者以外の医療費も全額無料である。
通勤手当や住宅手当は支給されないことが多い。また、日本のようなボーナス制度はないが、「Urlaubsgeld」と呼ばれる有給を取得すると支給される休暇手当、「Weihnachtsgeld」と呼ばれる11月に支給されるクリスマス手当がある。
②勤務形態
1日8時間労働が基本的で、残業をしたとしても勤務時間が1日10時間を超えることはない。1週間の労働時間は上限40時間と定められており、実際には40時間より短いことが多い。金曜日は午後3時を過ぎると業務を終了する会社もある。
また、ドイツにはサービス残業というものがなく、残業をした翌日は残業をした分だけ遅く出社したり、早く帰社したりするなどして調整する。調整できない場合は残業代が支払われる。有給は年に30日支給され、消化率は高い。数週間連続して取得することもできる。イースターやクリスマスのシーズンに長期休暇を取得する人が多い。
③福利厚生
ドイツの企業には基本的に福利厚生がない。転職をしてステップアップをすることが当たり前なので、同じ会社に長く勤める社員があまりいないことや、国の保障が厚いことが主な理由として考えられる。
ドイツで仕事をするうえで必要な能力
●語学力
もちろん会社や職種によるが、ドイツ語を話すことができなくても、英語の能力が高ければ採用されることが多い。日系企業であっても、現地企業であってもそれは変わらない。ドイツで実際に働いている日本人の中には、英語はネイティブレベルだがドイツ語はよくわからない、という人も少なくない。英語力に自信があるのであれば大きなアドバンテージになるし、そうでないのであれば優先して英語のスキルアップをはかろう。
しかしながら、当然、日常生活にはドイツ語が必要不可欠であるし、英語に加えてドイツ語も流暢であれば選択できる仕事の幅は一気に広がるだろう。母国語を話したいというのは当然のことなので、特にドイツ人が多い職場では、円滑なコミュニケーションのためにもある程度ドイツ語が話せるほうが望ましい。
大学を卒業しているドイツ人のほぼ100%は英語を話すことができるだけでなく、フランス語やイタリア語を話せるマルチリンガルであることも珍しくない。そういった人材と採用枠を争う場合があることを考えると、日本語と英語の能力が高いだけでは心もとないかもしれない。
●学歴
多くの先進国がそうであるように、ドイツもまた学歴を重視する。特に大学名よりも成績が優良であるかどうかを見る企業が多い。
●職歴
ドイツの企業は即戦力を求める。年齢は関係なく、社会人経験がない20代よりも経験と知識に富んだ40代のほうが歓迎される。また、同じ職種の経験がなければ評価されないので、全く新しい分野で活躍したい場合にはインターンシップやアルバイトなどで経験を積むことを考えよう。マネジメントスキルではその限りではないので、何かしらの役職に就いて結果を出した人はその経歴を大いにアピールしよう。
ドイツでの仕事の見つけ方
●仕事の探し方
①日本人向けの情報サイトを使う
・MixBクラシファイド
・ドイツニュースダイジェスト
②求人サイトを使う
・Indeed
・StepStone
・Monster
③駐在員になる
ビザの取得をサポートしてくれる仕事先を探す、という最大の難関をクリアする必要がないので、ドイツで働くという夢を叶えるには駐在員になるのが一番近道かもしれない。相場よりも2倍近く高い給与も見込めるので、悠々自適な暮らしを送ることもできるだろう。ドイツに支社を持つ日本の会社に就職、あるいは転職するという方法もぜひ考慮してみてほしい。ただし、ドイツへの駐在は人気が高いので、競争率は高いだろう。
④転職エージェントに相談する
現地の求人サイトや、現地在住日本人向けの情報サイトで求人情報を探すことで、理想とする就職先が見つかる可能性は大いにある。しかし、それらの求人情報は自国民、またはすでに永住権や就労ビザを取得している人が対象である場合が多く、まだビザを取得していない人や、ドイツでの就職活動の知識が乏しい人には難易度が高いケースがほとんどだ。
そこでおすすめしたいのが、転職エージェントに相談するという方法だ。経歴やスキル、希望の条件や将来の展望に合った求人情報を提供してくれるだけでなく、経験豊富なエージェントであれば、履歴書の添削から面接対策を行ってくれるだけでなく、ビザの取得までサポートしてくれることもある。
以下の記事で、海外案件に強いお勧めの転職エージェントを紹介しているので、ぜひ参考にして欲しい。
●日本人が働きやすい職種
・日系企業
・日本食レストラン
・専門的な技術を要する職種(医療系など)
これらは就労ビザの取得がしやすく、日本語が話せることや、日本の文化に精通しているなど、日本人であることがアドバンテージとなる可能性が高い職種だ。ただし、仕事をするのに差し支えない程度のドイツ語は求められるので、ドイツ語が全く話せないと採用されるのは難しいかもしれない。
ドイツで長期的に働くことを望むなら、まずは日本食レストランに就職し、ドイツ語や英語のスキルを磨いていくのがいいだろう。日本食レストランは就労ビザを取得したい日本人のサポートに慣れている場合が多いし、チップがもらえるので額面以上の金額を稼ぐことができる。
なお、日本人が多い地域は以下の通り。
・ベルリン
・デュッセルドルフ
・ミュンヘン
・フランクフルト
特にデュッセルドルフはヨーロッパでも3番目に日本人の人口が多く、日本人を見かけない日はないと言われるほど日系企業が多い。
●希望の仕事が見つかったら(面接や給与交渉)
ドイツの就職活動に必要な書類は多い。もちろん会社によって違うケースもあるが、基本的には以下のようなものを用意し、メールで送付する必要がある。なお、直接会社に書類を持っていく場合は、デパートなどで売られている専用のファイルに入れること。
・履歴書
ドイツ語で履歴書は「Lebenslauf」。ドイツ語、英語の2種類あるとよい。ネットで検索するとお手本がたくさん出てくるので、それらを元に作成するのも良いだろう。フォーマットは決まっていないので、採用担当者の目に留まりやすく、思わず読みたくなるような履歴書になるよう心がけよう。基本的に個人情報、職歴、学歴、資格やスキルの順番で書く。
・カバーレター
志望動機を書いたもの。ドイツ語、英語の2種類あるとよい。履歴書と同じく、フォーマットは決まっていない。採用担当者が一番最初に目を通す書類になる。
・大学の卒業証書(英語)
・大学の成績証明書(英語)
選択した科目、成績が全て載っている必要がある。
・TOEICのスコアの証明書
・ドイツ語能力証明書
・勤務証明書(英語)
職歴がある場合。
書類に興味を持ってもらえたら面接に呼ばれる。面接はだいたい複数回に及ぶ。ドイツではまず最初に企業側から仕事内容や勤務形態について説明があることが多く、イメージと違ったり条件が合わなそうであればその時点で面接が終わることもある。
質問内容は一般的だが、必ず「なぜドイツで働きたいのか」、という質問はされるので、答えを準備しておこう。就労ビザの取得には企業側のサポートが必要不可欠になるので、自分がどれだけ会社に貢献できる人材であるかをしっかりとアピールすることが大切だ。嘘を言う必要はないが、やや大げさに話すほうが良いだろう。
なお、給与交渉は慎重に行うこと。ドイツではステップアップのためには転職をすることが当たり前なので、昇給にはかなり時間がかかるし、退職金ももらえない。最初に提示された給与と同じ額で何年も働くことになる可能性が高いので、事前に相場を調べたり、職歴がある場合は前職でもらっていた給与を伝えるなどして、自分が希望する給与の額に近づけられるように努めよう。差し引かれる税金も高く、手取りは給与全額の6割くらいになるので注意。
就労ビザについて
●就労ビザの種類
ドイツで働くことができるビザは3種類ある。ワーキングホリデービザと就労ビザ、そして配偶者ビザである。永住権を所持していればもちろん働くことができるが、ドイツに住んだ経験のない人が永住権を取得できる可能性はほぼないに等しいので、詳細の説明は省略する。なお、厳密に言うとドイツには就労ビザ、配偶者ビザという名前のビザはないのだが、便宜上そのように表記させていただく。
①ワーキングホリデービザ
一般的なワーキングホリデービザと同じ。事前に仕事先が決まっている必要はなく、仕事先や職種の制限もないので、期間限定でもいいからまず一度ドイツで働くことを経験してみたい、という18〜30歳以下の方にはおすすめのビザだ。
②就労ビザ
前述の通り、ドイツには就労ビザという名前のビザはなく、滞在許可証に労働許可が降りるとドイツで働けるようになる。この記事では、労働許可が降りた滞在許可証のことを就労ビザと呼ぶことにする。
就労ビザの申請は仕事先と一緒に行う必要があり、取得後はその仕事先でしか働くことができないので、まず第一にドイツでの仕事先を見つけなければならない。就労ビザを申請する条件には、年金や税金を納めていることや、健康保険に加入していること、また生活できるだけのお金を稼いでいるか、などがあるので、必然的に正社員として採用されることを目指すことになる。
③配偶者ビザ
就労ビザと同じく、配偶者ビザという名前のビザはない。ドイツ人と結婚した場合に与えられる滞在許可証には無条件で労働許可が降りる。
●就労ビザの取得方法
①ワーキングホリデービザ
以下の条件を満たしていれば、ワーキングホリデービザを申請することができる。
・日本国籍を有している。
・18歳以上30歳以下である。 ※申請時に30歳以下であればよく、滞在中に31歳を迎えても問題ない。
・往復の航空券、または航空券を買うための資金を持っている。
・2,000ユーロ(約25万円)以上の預金がある。 ※生活費を支払う能力があることを証明するため。
・ドイツで有効な医療保険、および賠償責任保険に加入している。
②就労ビザ
会社のサポートなくして就労ビザを取得することは不可能なので、兎にも角にも正社員として雇ってくれる仕事先を見つけることが最重要となる。サポートしてくれる会社が見つかれば申請自体は難しくない。
ただし、ビザの申請を行うドイツ外国人局は完全予約制、かつ混雑しているため、スケジュール管理には注意が必要。申請時に提出書類には以下のようなものがある。
・パスポート
・雇用契約書
・就労許可の申請書
・就労許可の申請書・勤務先に書いてもらう
・滞在許可の申請書
・家賃の証明
・加入保険の証明
・住民登録証
・家、または部屋の契約書
など
③配偶者ビザ
ドイツ人と結婚をすることが唯一の条件。配偶者ビザは就労ビザと違い、事前に仕事先を決める必要はない。また、ドイツ国内のどの会社にも勤めることができるので、退職、転職も可能である。配偶者ビザが無効となるのは、離婚した場合のみである。
ドイツでの暮らし
アルコール類を含め、食料品や日用品がかなり安い。郊外での一人暮らしなら月700ユーロ(約87,000円)、例えばベルリンのような都市でルームシェアをするなら月670ユーロ(約83,000円)ほどで済むだろう。
税金が高い分、国の保障が行き届いているドイツでは、予想外の出費があまりないため、計画的な貯蓄をする人が少ない。普段は慎ましやかな生活を送り、数週間ほどある長期休暇の際に思い切り旅行を楽しむ、という人が多いようだ。
ドイツで働くことに興味があるのであれば、まずどのような案件があるかを確認しよう
ここまでドイツでの仕事の見つけ方について説明してきたが、希望通りにドイツで働くことができるかどうかは、結局のところ求人案件次第である。ドイツで働くことに少しでも興味があるのなら、ひとまず海外の求人案件に強いサイトに登録して、自分の経歴や志向に合わせた案件を紹介してもらおう。エリアや職種、給与水準がある程度分かるようになれば、いっそう具体的にドイツでの働き方や実際の生活がイメージできるはずだ。
当然ながら、日本での求人に比べて海外求人案件は少ない。くわえて、求人サイト内で非公開となっているものも多い。なのでまずは複数サイトに登録し、それぞれのサイトの非公開求人を見てみることから始めよう。
海外の求人案件に強く、日本に拠点がある主な求人サイト・エージェントは以下の通り。
①JAC Recruitment
<サイトの特徴>
1975年イギリスで創業、コンサルタントの人数は約550名、業界最大規模の転職エージェント。世界10ヵ国で日系企業、外資系企業、各国のローカル企業などに対し人材紹介事業を幅広く展開している。スタッフレベルのポジション以上、年収500万円以上のスペシャリスト、マネジメント層、グローバル人材に向けた求人に特化していることが特徴。日系企業や日本法人のある外資系企業の、海外勤務案件や海外駐在案件が得意。
国名から求人情報を検索することもできる。各国のコンサルタントの知識とスキルが高く、利用者からの評判は極めて高い。
<サイトの利用方法>
まずは会員登録をして求人情報を探す。国ごとに求人情報を検索できるので、海外で勤務したい場合は国名から選ぼう。外資系企業やグローバルな人材を求めている企業の求人情報も豊富なので、語学力を活かしたい人や駐在員を目指している人は、コンサルタントにそのように伝えること。
自分の希望とマッチした求人情報が見つかったら、履歴書添削や面接対策、スケジュール調整などのサポートを受けながら採用選考を受けることになる。
②ロバート・ウォルターズ
<サイトの特徴>
1985年にイギリスで設立された人材紹介会社。2000年には東京オフィス、2007年には大阪オフィスが設立され、現在では世界30ヶ国の主要都市にオフィスを構えている。キャリアアドバイザーは全員バイリンガル、中には外国人もいるので、転職活動をしながら語学力を磨くこともできる。
外資系企業、日系のグローバル企業の求人情報に強く、またスタッフレベル以上、年収500万円以上の高収入所得者に向けた求人情報が多いので、優れた職歴やスキルを持つ人材には特におすすめだ。履歴書の添削や面接の受け方の指導など、アフターフォローも充実している。登録した情報を元に、スカウトメールが届くこともある。
<サイトの利用方法>
外資系企業や日系のグローバル企業の求人情報が豊富なので、語学力やスキルを活かしてそういった企業に務めたい場合は、希望する職種や給与を元に求人情報を検索しよう。海外での就職を目指す場合は最初に会員登録をして、海外で働きたいことや希望の勤務地などをキャリアアドバイザーに伝えよう。勤務地が海外の求人情報は少ないので、各国の求人情報について熟知しているキャリアアドバイザーにまずは相談しよう。
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