来たる2016年8月5日から8月21日までの17日間、ブラジル最大の観光都市であるリオデジャネイロでオリンピックが開催される。日本からも続々と選手やサポーターがリオデジャネイロしており、徐々に報道も盛り上がりを見せてきている。一方でブラジル国内では、教育や医療、景気の停滞等、山積みの国内問題を後回しにしたオリンピック開催に批判の声も上がっている。批判の対象であるルセフ大統領は不正会計への関与でによって職務停止に追い込まれ、オリンピックの開会式にも出られないといったような混乱ぶりである。オリンピックを控えるブラジルで何が起こっているのか、現地の反応を、南米最大の都市であるサンパウロ在住のHowTravelライターがリポートする。

スポンサーリンク

オリンピック歓迎ムードの裏側で渦巻く政府への不満

(現地在住ライター 増成かおり

今週、サンパウロのメインストリート、パウリスタ大通りを通りかかると、若者二人が「施しはいらない。仕事が欲しい」と書いた大きな紙を掲げて失業して困っていることをアピールしていた。ブラジルはオリンピック景気に沸いていると思う人も日本にはいるようだが、実際は失業者が増える一方なのに物価が上昇するなど、経済危機と呼ばれる状況に陥っており、その影響でリオでのオリンピック開催を快く思わない人もいる。

オリンピックを前に、聖火リレーがブラジル国内300もの都市を巡り、それを賑やかに迎える市民の様子が報道され、スポーツニュースではオリンピック特集コーナーが組まれるなど、一見するとオリンピックが国民に温かく迎えられている印象を受ける。

しかし、実際にはブラジル各地で聖火リレーの妨害活動や、トーチにバケツで水をかけようとするなどして聖火を消そうとする人が後を絶たない。オリンピック目前だというのにオリンピック関連の飾り付けが全くないサンパウロでは、8月5日、まさに開会式当日に反対集会の計画があり、オリンピックを歓迎していない人が少なからず存在していることがとうかがえる。

人々は、巨額の税金がオリンピックにつぎ込まれる中、政府が予算不足を理由にして、治安、医療、教育などの環境整備を遅らせていることに苛立ちを募らせている。これはワールドカップの時も同じだった。政府に対する不満が膨らみ、自国でのオリンピック開催が決定した当時の喜びと誇りを忘れているのかもしれない。

例えば、あるクリニックの待合室で隣り合わせた女性が話したのは、公立病院では診察の予約に2ヶ月かかり、検査の予約にさらに2ヶ月、その後の再診予約がいつ取れるか分からないという状況だった。高額の保険料が必要な民間の医療保険に加入できない人は、スタッフの数が不足し設備の整わない公立の病院に行かざるを得ない。会社からの補助があれば医療保険に加入できるが、経済不振でリストラされる人が増え、医療の恩恵を受けられない人が多くいるという。もし不景気でリストラされなければ、もし公立病院の質が高く数が多かったらこんなことにはならないはずだと言っていた。

治安の面では、走行中の車にピストルを持って走り寄り、無理矢理停車させて金品を奪う強盗など、連日犯罪が報道されている。失業者の増加は犯罪発生率の増加につながるが、警察の警備や捜査は追いついていない。IS(イスラム国)に忠誠を誓う者も現れ、オリンピック開催中のテロの発生も懸念されている。
 
その政府は、5月にルセフ大統領が会計の不正操作をしたとして停職に追い込まれ、ルーラ前大統領の汚職疑惑や最近では隠し資産が発覚した。その上、費用をかけて準備したはずの選手村が欠陥だらけだったり、ワールドカップの前には出来上がるはずだった地下鉄がまだ出来ていないなど、政府は税金を無駄にしているだけだと国民の政治不信と怒りは強まるばかりだ。
 
こうした状況の中、4年に1度のスポーツの祭典を歓迎する人がいる一方で、それを心から楽しむゆとりが全ての国民の中にあるとは言えない。しかし、どんなことでも結局最後にはなんとかなってしまうのがいつものブラジル。世界中から来る全ての人にブラジルでの時間を楽しんでもらい、選手にはオリンピックで素晴らしいプレーを見せてもらえることを心から願っている。